黒曜の間より。言葉と映像がひとつに溶ける、没入の一篇。
視界を忘れた深海で、左耳だけが残響を拾う。燭台を手にしたまま、儀式の場所はまだ決まらない——沈黙の底に灯る一篇。
喉が渇いて、ふと車を止めた。横には、キラキラと羽を広げて休む白鳥の群れ。渇いて、よかった——停車場の湖面に憩う白鳥を描いた一篇。
貴方の欠点が嫌いだったのに、恨み続けたらそればかり頭に残って——いつの間にか、気になって仕方なくなった。深い宇宙に呑まれる一篇。
貴方の後ろに立てば、四方に動く目が見える。嗅覚鋭く、野生の動物のようにあの人この人を見て——その検知能力が好き。青白い狐火に寄せた一篇。
ずっとギリギリで、良い人でしかなくて。伝えられなかった事が無限にある。言おうとして引っ込めた言葉達——綺麗にまとめられないから。夕丘に寄せた一篇。
素足で飛び出せば、皆の目線は下に。羽織ったのはいいが、少し焦りすぎた——午前中はやる事が目白押し。一心不乱に駆ける一篇。
心の奥に、いつも誤魔化す想いがあると知っている。代わりはいくらでもあるのに、簡単にはできない——貴方が大切にしまっている気持ちだから。音の無いピアノ室に寄せた一篇。
昼下がりの講義、ウツラウツラ。その一言に目が覚めて——ずっと求めていた先端、一筋を手にした。一本の弦に寄せた一篇。
端っこの私に、貴方は沢山の栄養を注いでくれた。注ぐほど、大きくなるほど、貴方の原型は見えなくなり——私の端っこにも居ない。空の器に注がれる一篇。